2013-05-26

Enemies / Embark, Embrace

過去2009年、10年と来日公演をした事もあるアイルランドはウィックローの4人組ポストロックバンドEnemies。これまでシングルやミニアルバム等でのリリースはその間にありましたが、フルアルバムとしては2010年以来で2枚目の「Embark, Embrace」
まず気が付くのは以前まではインストゥルメンタルの曲がメインだったのに対し、今作ではヴォーカルが加わってる曲が多い事。すごく自然体で導入されているので多様に変化する音との調和もばっちり。バンドはもちろんゲスト参加もあったりと曲にさらなる広がりが増している。またそれによって今まで持っていた屈強さのイメージだけでなく、表情のある柔らかい部分もより浮き彫りになっているのでは。特に#2 "Executive Cut"でダイナミックに開花している。前に突き進む骨太なリズム、ギターの躍動感やメロディーの揺らめきが全部一体となってヒートアップしながら向かって来るのが圧巻。 #5 "Indian Summer"も然りで、より聴き手との距離が近くなったとも思えた。もちろん#4 "Beacher"の様な音のみで勝負の曲も魅力的だ。
バンド自らジャンルを"Lilt / Rock"とタグ付けしている通り、パワフルかつタイトなのに全体的な音の印象は弾んでいて軽快。これは相当の演奏力が無いと実現出来なさそうであるし、同時にテクニックに頼らない表現力を必要とすると思われる。しかもそれを自在に楽しんでいる様な雰囲気が音源からひしひしと伝わって高揚感で満たされている。
過去来日した際のライブは2回とも観たのですが、まさに息を飲むようなすさまじさと音の豊かさに終始圧倒されっぱなしだった。あれからすでに何年か経っているのでまたライブが観たい。
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*Heavyweight Records : LP/CD[released]May 10, 2013

Stiff Slack (Japan) : CD[released]May 20, 2013
Topshelf Records(US)
*bandcamp : Digital

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#2 "Executive Cut"のセッション映像もとっても良い。


2013-05-19

【band】Grime Kings

Grime Kingsはカナダはオタワで活動するバンド。Facebookのプロフィールを見ると4人組な模様。2011年から作品をbandcampから出し続けており、毎年1枚のペースでアルバムがリリースされている。(その間にデモ音源やコンピレーションの参加なども)
ロックサウンドをベースにしていますがそんな部分を軽々こなし、そこからさらにエクスペリメンタルな要素を柔軟に用いた多様なアプローチが光る。アートワークと密接に共鳴している様などろっとした混沌さが常にあって、それが他と一味違った魅力を彼らはすでに持っているのでは。ちなみにメンバーのCallum Runcimanは同じくオタワのバンドBoyhoodのライブでドラムを担当。というのもBoyhoodのCaylieは彼のお姉さんです。
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2011年作,「Something Ugly」から#2 "What's It Gonna Take?"
ごつごつとした荒削りなサウンドがカッコ良く目立ちますが、結構各曲の質感も異なります。

2012年作, 「First View Of The New」から #3 "Eden"
どこか倦怠感に飲まれたダークな雰囲気が効いてます。音の「間」的な物や、効果音やサンプリングを使い至る所にしかけがあってユニーク。

#7 "As You Please"の2012年ライブ映像。


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そして今年もアルバムを出す予定なのか、ちらほらFacebookで情報を目にしますが現時点(5/19)ではタイトルは「Perfume」で2曲が公開されています。これを聴く限り前作とはまた違ってきて変幻自在かつダイナミックなリズム展開にメロディがよりくっきり浮き出ており、ややエモーショナルなヴォーカルと相まって躍動感があるサウンドに。
まだ年齢的にも若いと思われるので表現力が自由だし、それを吸収するだけでなくアウトプットする手腕も兼ね備えていそうな気がします。アルバム非常に楽しみです。

2013-05-16

Mazes / Ores & Minerals

2009年頃から活動し、現在はトリオ編成のイギリスのMazesが今年2月に出した2ndアルバム「Ores & Minerals」前作ではポップで突き抜けるギターサウンドにグランジの影響が背景にある、といった感じだったのに対しやはりメンバーが減って3人になったからというのも大きいのだろう、音自体が幾分シンプルになっている。それは#1 "Bodies" から顕著に表れていて規則的なリズムに軽やかなメロディが巧く絡んで効果を発揮している。タイトル曲の#4 "Ores & Minerals"や#10 "Skulking"も同じタイプの曲で彼らの新しい一面と言える。そして反復するサウンドはもちろん#3 "Significant Bullet"、#9 "Leominster"はどちらも暖かみを含んだインスト曲でさらにミニマルな印象を深めている。メロディの即効性では前作の方かもしれない。感情の赴くまま外側に発している角張ったイメージなら今作はどちらかというと、こつこつと内側に向かって全体が丸みを帯びている感じだ。狙いが良い意味で定め切れている。じっくり熟成されて若干サイケな雰囲気があるのもそのせいか。タイトルやアルバムアートワークにも登場するOres & Minerals(鉱石と鉱物)というものそう思うと腑に落ちる部分がある。まるで見かけは地味でも色々な物がぐっと凝縮されているかの様な。だからなのかメロディの人懐っこさは素から出ているもので、まさしく天然なんだろうなと思った。方向性が変わってもしっかり残っている。—————————————————————————————————————————

Fatcat Records : LP/CD/Digital[released]February 18, 2013


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Fatcat Recordsから公開された#1 "Bodies" のセッション映像がかなり良い


 #10 "Skulking"のビデオ

2013-05-12

No Joy / Wait To Pleasure

モントリオールのNo Joyの今年4月にリリースされた2ndフルアルバム「Wait To Pleasure」2010年のデビュー作「Ghost Blonde」から2012年の「Negaverse EP」を経ての新作。今回もMexican Summer Recordsから。
ざっくり言うとシューゲイザーとハードコアがまんべんなく混ぜ合わさったサウンドなのだが、もちろんそれだけでは無い。若干浮遊感の割合が強くなったのかと思えるがそれによって立体的な深みが加わり、#2 "Hare Tarot Lies"などは水面の波紋のような音の広がりで魅せる。#6 "Lizard Kids"の時に疾走したり、冒頭の#1 "E"におけるヘビィなギターサウンドを炸裂させたりするハードコアな部分は磨りガラスで1枚挟んで見えているといった感じだ。しかしそれによって彼女達のボーカルはより魅力的に浮かび上がって来る。辛口ドリーミーというか、冷たい感じはしないのにだからといってこちらに熱心に話しかけてくる風でもなく、聴き手側との距離感が程よく保たれているといった印象。
なんだかこの突き放しそうで放さない空気感は聴き覚えがあるなと思っていたら、このアルバムのプロデューサーがViolensのJorge Elbrechtだというのを実は聴き終わってから後追いで知りました。確かにと思う所が多々あり納得。こんなに自然にマッチするとはちょっとびっくり。
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Mexican Summer Records : LP/CD/mp3[released]April 23, 2013


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2013-05-05

Deerhunter / Monomania

2001年の結成からフルアルバムとしては6作目になるDeerhunterのニューアルバ「Monomania」もう立ち位置的には中堅以上のキャリアなのではと思うし、作品を出す度に大きな話題となってますが毎回明確な作品のテーマやビジョンを持ち、同じ事はしていない。常に新鮮な印象をキープ続けているのが凄い所。しかも今作は今までの流れからまた大きく変化している。ドリーミーな雰囲気が一気に後退し、よりリアルで生々しいガレージロックなサウンドとなっている。BradfordとLockettのソングライティングの違いがさらに薄まっているのも注目。この点はDeerhunter内だからあえてなのだろう。そして結成時からバンドを支えるドラマーMosesの存在も忘れてはいけない。
しかし驚いたのはまずメンバー編成。ここ何年か4人で落ち着いている様に見えたがここに来てベーシストのJosh Fauverが脱退。新たにJosh McKayがベースに、もう一人ギタリストが増えFrankie Broyles(現在は解散している同じくアトランタのBalkansの元メンバー、Lotus Plazaではドラム担当)が加入。変化の話をしましたが彼らのアルバムには必ず感覚まで麻痺してくる様なひたすら反復系の曲があるのはおなじみ。過去作なら"Nothing Ever Happened"や"Desire Lines"など。今回はそれがタイトル曲の# 10 "Monomania"なのだろう。後半でただただモノマニアを連呼するのに圧倒されてしまう。しかし聴いているうちに以前とは違い、迷い無くストレートな熱を放っている。
Monomania(偏執症の一種でもある)という言葉のチョイスが絶妙で、好みが多様化している現代ではなおさら。少なからず誰にでも持っている、起こりうる様な事で必ずしもネガティブな印象とは思えない。キャラクターを通じて表現するタイプなのかもしれないが、そこに個人的な想いも自然と練り込まれている気がする。うっすらと色々な曲に出て来る「老い」を連想させる歌詞。そういった面でのリアルタイムさも共感を集めて魅力の一つなのだろうなと思った—————————————————————————————————————————

4AD : LP/CD[release]May 7, 2013

Hostess Entertainment Unlimited (Japan) : CD[released]April 24, 2013
※日本先行発売

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