2014-12-21

Absolutely Free - s/t

カナダ、トロントのAbsolutely Freeのデビューアルバム。
以前ブログで紹介した通り元DD/MM/YYYYのメンバーからなるバンド(現在はトリオで活動)だがあれから年月が経っている訳でもあり、このセルフタイトルの今作を聴いてその説明はもはやあまり意味の無い事の様にも思えた。その位このバンドでの方向性が明確に伝わって来る。
これまでに出したシングルの時と引き続きネオ・サイケデリックといった趣き。スペーシーな旋律に細やかな音の重なりがとにかく美しい。#1 "Window Of Time"ではじっくりと丁寧に積み重ねながらそれと逆行する様々な音がコラージュされている。浮遊感を程よくコントロールするタイトなリズム、そして特に印象に深く残るのはヴォーカルの力強さ。しっかりと曲の舵を取りながらも音にスッと溶け込むような柔らかさを保っている。かと言って決して歌メインにならない辺りはやはりエクスペリメンタルなバンド出身ならではと思う。先に公開されていた#2 "Beneath The Air"の華やかな高揚感には本当にうっとりするし、#3 "Striped Light"では躍動するポップな風合いを散りばめながらも印象自体は安定していて丸みを帯びている。#6 "My Dim Age"はサイケ的な要素がふんだんに感じ取れる曲でベタかもしれないがすっと浸透するように軽やかだ。その反発のごとくアグレッシヴな展開の#7 "Vision's"も面白い。夜寝る時に瞼の裏側に残像がチラチラ見える様なぼんやりとした多彩さに溢れている、そんなアルバム。
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Arts & Crafts : LP/CD/Digital [released]October 14, 2014
Lefse Records : LP/CD/Digital[released]October 14, 2014

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2014-11-29

Dories - Stripped

モントリオールで活動するDories。現在のメンバーはJosef McGuigan、Aidan O’Reilly、Chris Hauer、Spencer Curtisの4人でこの編成になったのは2014年ですが結成自体は2012年。今までbandcampなどで曲をアップしたりしていましたが、カセットテープとデジタルでEgg Paper Factoryから10月にリリースされたこの「Stripped」が彼らのフルデビュー作となるようです。6曲入り。
#1"Miniatures"はミニマルなリズムが根底にあってそこからひりひりとしたギターサウンドが大胆に盛り込まれるのが印象深い。#2 "Drip"ではパワフルな部分が突然飛び出し、#5 "Small Circles"ではローテンポから後半一気に加速する。時に壊れそうな程儚く響くメロディ、時に鋭くダイナミックだ。1曲の中で様々に変化するポストロック的な感じだが、その高低差が彼らの場合ぐっと凝縮され非常に明快。一見ランダムな様でしっかりと構築されたメロディとポップさが魅力かもしれない。要素が多くてもまとまりがある。でもやはりこうだと思ってもスルっとかわされる様な展開が全く掴めないのが聴いていて非常にワクワクする。動静の切り替えがなめらかで美しい#6 "Weaving Baskets"も必聴。
レコーディングは今年の2月で携わったのがRaff McMahan (Telstar Drugsのメンバー)というのも納得。新しい世代と言うかカルガリーとモントリオール、ビクトリアなどでこういった柔軟なセンスを持つバンドが同時多発的に続々と出て来ている気がする。今後もDoriesはもちろんその周辺にも注目。
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Egg Paper Factory : Cassette/Digital [released]October 11, 2014
bandcamp 

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2014-11-22

Plastic Factory Records - Meet the Factory

Plastic Factory RecordsはモントリオールのGregとMikeによる新しいレーベル。今年の3月にNap Eyesの「Whine of the Mystic」から始まり、それに続く8月にはこのLP2枚組のコンピレーション「Meet the Factory」をリリースしている。 
モントリオール、ハリファックス、ビクトリア、ニューヨークなどの出身、全20バンドから1曲ずつ入っているのだが曲目を見るだけでもレーベルの主宰者2人が関係した、もしくは周辺のバンドが集まっているのだろうなと想像が出来る。と、言うのもMikeはEach OtherのメンバーでありHomeshake、Un Blonde、Play Guitar、Nap Eyesなどはもちろん、彼らと繋がりの強いバンドが多い。自身のバンドもアルバム未収録の#14 "Buyer Be Brave"が収録されている。全体的に共通するのは軽やかでポップ、でもこだわりがしっかりある味わい深いユニークな楽曲が目白押しという印象。さりげなく変化球みたいな感じがして面白い。気のせいだろうか各バンド本来の雰囲気と今回は少し違う様にも思えた。(インナースリーブにはそれぞれの曲のレコーディングした場所などが記載されている)コンピレーションなのであれこれ聴きながらデジタルでも存分に楽しめるのだがこうやってフィジカルとしてLPを出す所が良いと思うし、がっつり聴けるのも嬉しい。暖かみのあるアートワークもどこかこの界隈のバンドの雰囲気が垣間見える気がした。 
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Plastic Factory Records : LP/Digital [released]August 6, 2014 
 
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(※来年1月に同じくこのコンピにも収録のEolaと共に来日しますね!)Homeshake - I Don't Play

Hand Cream - OK OK OK

Freelove Fenner - Ursula Major

Fake Buildings - Matador Records

Each Other - Buyer Be Brave


2014-11-18

Monomyth - Saturnalia Regalia!

カナダ、ハリファックスのMonomythの今年7月末にリリースされた待望のデビューフルアルバム「Saturnalia Regalia!」
これまで出して来たEPなどにあったシューゲイザー的な部分はあくまで曲の一部の要素として収まっているのが意外。 それによりアルバム全体に統一感が生まれている。彼らはムードだけでごまかさずにメロディとハーモニーを重視したかったかもしれない。それは自らの名前が付いた#1 "(Theme From) Monomyth"からも感じられる。シンプルといえばそれまでなのだが、全体的にほのぼのとした独特のテンポを持っている。まったりサイケ風な#2 "Pac Ambition"で特に顕著だ。#3 "Candleholder"ではメロディは軽やかで明るいトーンなのに時々チクチクと引っかってくる甘酸っぱさも印象的でとても良い。居そうで数少ないバンドだと思う。まだデビューアルバムだがこの部分はこの先強い特徴かもしれないし、勝手な意見を言わせてもらうならばぜひ持ち続けて欲しい。ただその素直さは聴く人を少しばかり限定してしまうかもしれない。(もちろんそれはそれで良いと思う)#7 "Patsy"はアルバムの中でもひと際ロマンティックだ。12星座があしらわれたケーキのアートワークが意味する所は不明だがなんとなく合っている様に思えて、生活感のあるドリーミーな雰囲気が漂う。 それに憂いを帯びつつ加速する#5 "Medicine Man"ではパワーポップ感があるし、#8 "The Big Reveal"のしっとりとしたフェードアウト感も美しい。 
どことなく地元愛が強いのかもしれないが、そういえばハリファックスはSloanの出身地だと言う事もなんとなく頭に入れながら。いや、あれこれ考えずに素直に聴くのが一番。そんな居心地の良さも有りな一枚。
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Mint Records : LP/CD/Digital [released]July 22, 2014 
bandcamp[released]July 22, 2014
 
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Patsy • MONOMYTH from Seth Smith on Vimeo.

ちなみにこのビデオの監督のSeth Smithは同郷のバンド、Dog Dayのメンバーでもありますね。

2014-08-16

Spoon - They Want My Soul

テキサス、オースティンのSpoonの4年ぶり通算8枚目のアルバム「They Want My Soul」それぞれ別バンドやソロ、プロデュースなどの活動を挟みつつとはいえ、デビューアルバムが1996年なのでもう18年という間バリバリの現役で活動し続けているという事の凄さ。正直な所、私は6枚目「Ga Ga Ga Ga Ga」で彼らを知ったかなり後追い派なのだがそれ以前の作品を聴いてもどれも興味深い。作品によってアプローチは変えても芯の部分では一定の、変わる事の無い情熱や姿勢を貫いている事が伺える。当然と思うがそれはかなりの創意工夫と積み重ねて来た実積があってこそなんだろうなと感じる。
話は逸れたが今回のアルバムもそんな安定のSpoonらしさを遺憾なく発揮しながらまた違った側面を見せてくれる。メンバーも5人に増え(Divine FitsのライブメンバーだったAlex Fischelが加入と知り納得)細かい表現での幅がさらに広がっているのだろう。そしてレーベルもLoma Vistaに移籍している。#1 "Rent I Pay"では頭にズンと響くようなギターサウンドの存在感。一転#2 "Inside Out"ドリーミーなニュアンスで一瞬違う次元に引っ張られたような不思議な感じがする。この現象は今回のアルバムの随所に見られる特徴かもしれない。ダイナミックでクラシカルな部分とスマートで近代的な部分とを故意に行ったり来たりしている。違和感が無くスムーズだ。#4 "Do You"はそれが丁度混じった中間地点の様な印象。もちろん#3 "Rainy Taxi"でのエモーショナルな熱を放つ曲も良い。魅力の一つでもあるのが楽曲自体はキャッチーで親しみやすいのにやや斜めから切り込んでいる様な歌詞。タイトルからも分かる様に#8 "They Want My Soul" もまた然りだ。不満をユーモアに変えるようなタフさ、ひねくれているようでもなぜか時に非常に正直でシンプルに感じる。聴き手(もしくは彼ら自身かもしれない)を毎回飽きさせる事なく、自分達がやりたいと思う事を堂々と自信を持って表現しているのがひしひしと伝わって来る。
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Loma Vista : LP/CD [released]August 5, 2014 
MAGNIPH(日本盤) : CD[released]August 6, 2014
 
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余談ですが7月にKEXPで行われたセッション映像。新作からだけで無く過去作からも多く演奏しているのに注目。2nd収録のMetal Detektor(98年)もさりげなく。ちなみに来日は過去2度だけで日本でもまたライブが観たいと切望しますよね。

2014-08-15

Actual Water - Call 4 Fun

カナダ、トロントのActual Waterのニューアルバム「Call 4 Fun」
ジャカジャカとかき鳴らすギターに思わず心が踊る。そんなストレートである意味では古典的なポップ/ロックなサウンドが魅力。若さ溢れるガツンと勢いのあるインパクトなので若いバンドと思いきや、2008年頃から活動しておりキャリアは意外と長め。過去音源は現在でもbandcampで聴く事が出来る。今年7月からリリースされたニューアルバムもこの手のサウンドが好きな人にとっては正にツボを押さえまくっている。#1 "Take the Stairs"から余計な小細工をせず真っ正面から勝負する様は潔い。しかも至る所にハーモニーを上手く織り込むのが基本としてあるのでどこかこなれた感もある。良い意味でささくれの様なガサツキはそのままに#5 "Latoya"などで見せるセンチメンタルさすら感じるメロディが泣ける。キレキレに突っ走るでも無く、だからと言ってダレる事無く程よい緊張感で聞いていて安定感がある。#6 "Waldo Jackson"や#7 "Three O’Clock Kids"もなんとなく着地点が見えてるのは重々分かっていてもやっぱり良い。あれこれ考える前にウキウキする。アルバムが9曲で22分強というお決まりのスッキリ感も痛快。
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Bad Actors : LP [released]July 1, 2014 
*iTunes : Digital
 
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2014-07-20

The Group Sound - Romantic Notions

モントリオールを拠点に活動するThe Group Soundのニューアルバム「Romantic Notions」bandcampにリリースされたのは今年の7月ですが、レコーディング等は2012年と13年との事。
前作と比べると少し雰囲気に変化があるようにも思える。良い意味で落ち着きがあると言うか、メロウ要素がぐっと濃くなった感じがする。#1 "Art School Crush"からそんな休みの昼にまどろみながら聴きたくなる心地よい気怠さに包まれます。 未だ梅雨開けしないこの時期にフィットするような、全体的に湿度の高いサウンドなのだがどこか飄々とした軽やかさもある。しかしインストゥルメンタルの#3 "Migration"では突如コズミックな印象でやや機械的なサウンドを展開したと思いきや、そこから渦を巻きながら#4 "Hate So Eazzy"になだれ込む様に一瞬くらくらとする。先にビデオで公開されていて、タイトルにもなっている#7 "Romantic Notions"はこのアルバムの中でもひと際目立つ存在だろう。メロディの移ろいが美しく、その後全てを飲み込み風のように過ぎ去っていく躍動感。のびのびとしたヴォーカルとギターの音色の揺らめきに浸れる#8 "I, So Don't Care"なども必聴。細やかな感情の変化にシンクロするような音の豊かさがひっそりと垣間見えるアルバムではないだろうか。
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 *bandcamp : digital [released]July 6, 2014

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Group Sound - Romantic Notions from Group Sounds on Vimeo.

2014-06-29

Poncho Records Compilation Vol. 1 / (cassette)

コンピレーションを聴くきっかけとしては色々あると思うが、馴染みのあるもしくは名前は知ってるというバンドが何組か居れば大いに楽しめると思うし、通して聴くだけでまた新たに好きなバンドを発見できる。自分の聴く範囲をどんどん広げて行きたい人には非常に助かるし、興味深い物だと思う。たかがコンピ、されどコンピ。勿論、やみくもに選曲されたのでは無くある程度共通点がある方が個人的には断然聴きやすい。カナダはハリファックスのレーベルPoncho Recordsからリリースされた「Poncho Records Compilation Vol. 1」も然り。全19曲と言うみっちり感にも大満足なのだが、その中で12曲/バンドが地元ハリファックス出身。残りは別の出身だがいずれも関わりのあるバンドだと思われる。地元内だけで終わっていないのも良い所。タイプは様々だが全体的な括りとしてはサイケ・ポップを感じさせる曲が多い。 そして一筋縄ではいかないやや捻りのあるサウンドを炸裂させている。それでいて不思議とのどかな印象も。独特なユニークさはこの地域の奥深さを感じ取れるかのようで面白い。
超限定30本のカセットとデジタルでのリリースなのだがテープ(特に中身)のビジュアルのポップな可愛さも注目すべきポイント。
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 *Poncho Records : cassette/digital [released]May 16, 2014

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どの曲にも注目したいのですが個人的に好きな5曲を挙げたいと思います。

#1 Psyche Tongues(Toronto) - "Remain Unknown"


#2 No Bodies(Halifax) - "Pillow" 


#4 Walrus(Halifax) - "Save My Soul"


#12 Organ Eyes(Ottawa) - "Jeeps and Creeps"


#18 Monomyth(Halifax) - "Shit Cycle"

2014-05-31

Brave Radar - Message Centre

カナダ、モントリオールのレーベルFixture Recordsを運営する2人、Conor PrendergastとTessa SmithのバンドBrave RadarのカセットEP「Message Centre」 昨年レーベルのサンプラーに新曲は収録されていましたが、バンドとしてのリリースは2009年の「A Building」以来となる待望の新作。2012年のデモに基づき制作された物らしい。
#1 "Message Centre"の流れる様に軽やかなサウンドから始まり、#2 "Out of reach"の落ち着いたヴォーカルの清々しさ。躍動感が心地よい#4 "Too long weekend"と、いった感じにどこを切っても一貫としたミニマル・ポップが顔を出す。その姿勢は芯がぶれない印象と同時に明確さも感じ取る事が出来る。#8 "Again"もそうだがシンプルなのに音の移ろいや細やかなニュアンスが聴く側の想像力を掻き立ててユニークな面もある。内面から次々に湧き出て来るような柔らかいメロディ。決して単調にならずにゆるやかに明暗をつけていく。ほっこりとした懐かしい暖かさも彼らの忘れてはならない魅力なのだろう。そんな空気感やイメージはやはり主宰するレーベルのイメージとも自然とリンクしているようで、数あるレーベルの中でも独自の存在感を的確に発信し続けているのではと思える。
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 *Fixture Records : cassette/digital [released]May 20, 2014

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ビデオもイメージと映像がいい感じにマッチしてて素敵です


2014-05-18

Cousins - The Halls of Wickwire


Cousinsはカナダ、ハリファックスのガレージロックデュオ。今月リリースされたニューアルバム「The Halls of Wickwire」どちらもヴォーカルを取り、荒ぶるダイナミックなギターとパワフルに支えるドラムの黄金比が一瞬たりともダレる事なく音となって迫る感じが圧倒的でカッコいい。なお、Cousinsというバンド名で一瞬まさかと思いますが2人は本当のいとこでは無いらしい。でもその位、お互いのセンスが非常に近いからこそ出せるであろうこの団結感。力強く始まる#1 "Phone"から序盤は畳み掛けるように駆け抜け、アルバム中盤#5 "Death Man"からどんどんその熱量を増していく。#6 "Body"のまさに体の内部から血が煮えたぎるように徐々にヒートアップしていく様は緊張感さえ漂う。アツいのだけど安定していると言うか丁寧なサウンド。そこから間髪入れずに繰り出される#7 "What's Your Name"の沸点に達した無敵感が凄い。聴いて居るこちらまでアドレナリンが出て来るかのような怒濤の盛り上がりを見せる。アルバムを聴く上で詳細な背景を必ずしも知らなくて良いかもしれないが、ジャケット裏のクレジットやこの記事を読むとこのアルバムが実の祖母に捧げられたという事が分かるし直接でなくても間接的にそういったエピソードが少なからず関連している。そう思うとこの「強さ」はなんだか揺るぎない家族愛に似ている気がする。(と、言うのはこれは勝手な解釈ですが)#9 "Ocean"の前向きで感情的なメロディがいっそう感動的に響く。
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Hand Drawn Dracula : LP/CD/digital/(casette) [released]May 13, 2014 
Badabing Records : LP 

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本人出演、ガチ感のある#6 "Body"ビデオ



2014-05-17

ジョセフ・アルフ・ポルカ - 天声人語

名古屋を拠点に活動するジョセフ・アルフ・ポルカ(joseph alf polka)のCD-R新音源「天声人語」(tenseijingo) 彼らのライブ会場と一部の店舗で入手できますが、デジタル音源はiTunesでリリース。
真っ先に某新聞のコラム名が浮かんでしまうタイトルも気になる所ではありますが、東京で彼らのライブを観る度にどんどんアクティブな印象へと変わっていてそんな最近の弾けっぷりをそのままパックしたような感じだ。昨年リリースされたs/tのデビューアルバムとはまた少し違いアグレッシヴなポップさが際立っている。もちろんまだ残っていながらも、始めの頃に持っていたどこかミステリアスで夢みごこちな感じがどんどん薄くなりつつある事に少し寂しい気もしますが、現在進行形でこちらのイメージを覆してくれるのは楽しいしリアルタイムで聴く醍醐味だと思う。そんな事を抜きにしてもポップでキャッチーな#1 "虫のしらせ"には素直に心が躍るし、#2 "かわいいねこ"はまどろみ要素をたっぷり含んだメロディーが魅力。初期音源にも収録されていた#4 "ゴーストタウン"も躍動感が増してより今のイメージにフィットしている。そして各曲の個性がよりくっきりとした輪郭を持っている感じだ。ちなみに#6 "TOKIO"は誰もが聴いた事のあるあの曲のカバー、かなりしっくりハマっています。(※iTunes音源には未収録)—————————————————————————————————————————

*ライブ会場 : CD-R
*iTunes : Digital [released]April 26, 2014 

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2014-05-11

Chad VanGaalen - Shrink Dust

カナダはカルガリーのSSW、(またはアニメーター、プロデューサーなど)Chad VanGaalenの約3年ぶり、5作目となるニューアルバム「Shrink Dust」
まず目に入るのは強烈な印象のアルバムジャケットだが(もちろん自作)そんなイメージをいい意味で覆されるような非常に穏やかで奥深い響きに満ちている。それでいて今までのキャリアに根付いた遊び心を持ったサウンド要素が散りばめられていて独特の世界観をしっかりと具現化しているのでは。#2 "Where Are You?"はアルバムの中でも特に引力が強いミステリアスな曲だ。続く#3 "Frozen Paradise"もとろけるようなメロディに全体が覆われるよう。やや自虐的要素のある#6 "Monster"もやはりどこかひねりが効いている。反面#8 "Leaning On Bells"では荒削り的なストレートな部分も見せる。しかし今回は特にヴォーカルの芯のある力強さが全体を通して暖かみが伝わって来る。曲によってライブでのサポートメンバーの参加もありそれもサウンドをより濃厚にしているのだが、まさにSSWとしての円熟した表現力を存分に発揮している。ふと自分の辿って来た道を振り返りゆったりとした時間が流れているかのよう。それは作品を出すごとに落ち着いたと言ってしまうのとは違う、ユニークかつ奇妙であり続けながらもしっかり地に足のついたどっしりとしたサウンドの豊かさが常に基本となっている。ラストの#12 "Cosmic Destroyer"もその名の通り宇宙的な壮大さにさらに広がる世界観の深さが感じ取れた。
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Sub Pop : LP/CD/Digital[released]April 29, 2014 
Flemish Eye : LP/CD/Digital 

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2014-04-30

Telstar Drugs - Endless Strait

カナダ、カルガリー出身現在はモントリオールのエクスペリメンタルポップバンドTelstar DrugsのニューEP「Endless Strait」レコーディングは2013年との事ですが、今年の4月にデジタルとLPは限定でPerduからのリリース。全4曲のそれぞれがユニークでとにかく軽やか。内2人はFaux Furのメンバーとしても知られている。一聴するとこの周辺のバンドの特徴、儚くて美しいメロディラインやハーモニーに注目してしまうが(よく比較される所では同郷のWomen)もっと繊細なセンスを持っているように思えた。それはアートロックなのかもしれない。#1 "Pressed"もそうだが全体的にあくまで冷静さを保ちながら次第に曲の流れと共に表情を変えていく緻密な展開。#2 "Unglued"のように反復する最小限まで削ぎ落としたミニマルなリズムによってギターの感情の変化がかえって際立っている。日が差す柔らかい明るさと影のある憂いを同時に見ているかのよう。シンプルな物を上手く組み上げるのは絶妙なさじ加減が必要なのではと思うがそれを自然に表現している感じがする。 詰め込みすぎない余白を生かすギターポップ。ある意味受け手によって印象が変わるかもしれない。#6 "Glass Bottle" のひりひりとした緊張感、もこもこと凹凸のあるリズムからラストのギターの穏やかな音色は特に美しく響いている。
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*Perdu Records : LP/ Digital[released]April 25, 2014 
*EGG PAPER FACTORY : Digital [released]April 26, 2014

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2014-04-29

Homebody - s/t

コロラドはデンバーを拠点に活動するトリオ、HomebodyのニューEP。(元はデジタルで昨年に発表された)カセットでのリリースでカナダのカセットレーベルCraft Singlesから。一度聴けばその繋がりに思わずなるほどと言いたくなるのですが、リバーブをたっぷり効かせたサウンドに流れるような疾走感と混沌とした展開がポップな#1 "Keeping Home"は出だしからインパクト大だ。反面#2 "Embroidery"は良い意味で拍子抜けするようなまろやかさ。ハーモニーが際立っている。#3 "Tame"はのびのびとした雰囲気が最高にポップで、張り切りすぎない絶妙なな弾けっぷり。全体的にもやに包まれながらもその中からリズムのメリハリが浮かび上がって来てポストロックな印象もある。程よく肩の力を抜いた脱力系なのに所々に垣間見えるタイトなパワフルさが決め手となっているように思える。いやむしろ逆かもしれない。メロディは瑞々しく軽やかで時にエモーショナル。曲調の変化も楽しい#5 "New Breatharian"やずぶずぶと音の渦に飲みこまれそうでギリギリの所でポップな明るみへと転換する#6 "Courting"も印象に強く残る。ちょっとクセのある変化球ながら素敵な6曲。やみつき度は高い。
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Craft Singles : Cassette/ Digital[released]April 22, 2014 
(*bandcamp : 2013 )

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Doomsquad - Kalaboogie

トロント(またはモントリオール)のトリオDoomsquadのデビューフルアルバム「Kalaboogie」多方面的でエクスペリメンタルなサウンドを軸にじわじわと広がるサイケデリックさは思わず息を飲む。静けさの中に潜む豊かな表現が美しい#1 "When the Dead Become Infants"から#2 "Head Spirit (for our Mechanical Time)"へ突然視界が開けたように勢いを増しながら移行していく流れも良い。
サイケデリック要素も散りばめながらも彼らの場合どこかひんやりとしたエレクトロな質感に柔らかい有機的な音の躍動が見事に調和した、言うならば森系トランスなのではないだろうか。聴いて居ると体感気温がすっと下がっていくような気がする。
かと思えば#3 "Disremember/Dismemberment"や#4 "Waka Waka"などでは感情を発散させて時に呪文のようなヴォーカルも相まってミステリアスな雰囲気を増長させる。なんとも言えない不安感に突如襲われる#7 "Born from the Marriage of the Moon & a Crocodile"の凄みや昨年出たシングルにも収録されていた#9 "Ovoo"もヴォーカルのハーモニーとリズミカルな反響、音の重なりが深呼吸のような心地の良さを醸し出す。曲によって変幻自在な印象だ。ぜひとも静かな所で耳をすまして聴く事をオススメしたい。細やかな音のそれぞれに意図が隠されているように思えてインスピレーションが湧いてくる。
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Hand Drawn Dracula : LP/ Digital[released]February 25, 2014
No Pain In PopDigital[released]February 26, 2014 

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2014-04-13

Grime Kings - Honeymooning

2011年頃から活動しているカナダ、オタワのGrime Kingsのニューアルバム「Honeymooning」昨年から新曲が少しずつ公開されていましたがついに全貌が明らかに。フィジカルのリリースもありそうですが現在はbandcampでデジタル音源が公開、購入可。元々バンドアンサンブルで魅せるバンドと思っていたが前作よりさらに演奏力が強力になり各曲の個性がはっきりと輪郭を表している。スモーキーでやや憂いを含んだメロディはどの曲でも存在感を発揮し、メリハリが効いたドラムとなめらかなベースは感情の起伏を上手くコントロールしている。#1 "Stammering"はスローモーションのように浮遊する感じが非現実的で、#2 "One Of Us Is Lonely"では力強いリズムが躍動しエモーショナルなヴォーカルが印象に残る。特に#9 "Perfume" はアルバムの中でもざくざくとしたポップなサウンドが心地よく、途中からするりと変化するスケール感もドラマチックだ。古典的な軸をベースに、しっかりと雄弁にハーモニーを広げながらもそこからポストロック、ないし自由でアート的な表現へ昇華されているのも注目。#11 "Every Golden Future"はどことなくオリエンタルな印象もかすかに感じた。しかし#5 "Looked Like Rain But Never Came"などでは見てはいけないものを見てしまった時の様などろどろとしたエグさがそのまま残っている所も良い。ぼけっしているとふっと暗闇に触れてしまう危うさ、単にポップで綺麗な物だけを表現していないのかもしれない。様々な感情が渦巻いている。
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bandcamp : Digital[released]March 31, 2014

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2014-03-31

Tense Men - Where Dull Care is Forgotten

イギリスはブライトンのレーベルFaux DiscxからリリースされたTense Menの「Where Dull Care is Forgotten」そもそもこのレーベルはCold Pumas、The Soft WallsメンバーのDan Reevesが運営している。元々のそんな縁もあってかTense MenはSauna Youth、Cold Pumas、Omi Paloneの3つのバンドメンバーからなるプロジェクト。
相性は抜群なのだろうと想像できるが、まさしく良いとこ取りな印象はそのままにそれぞれの持ち味が発揮され上手くブレンドされたようなアルバム。良さが対立せずに絶妙にマッチしている。とはいえ、白眉はなんと言っても的確なビートを繰り返すドラムとベースのミニマルさとひりひりと炸裂するギターサウンドのぶつかり合いが緊張感と熱を生み出している#2 "RNRFON"だろう。静けさから波紋のようにまろやかなで美しい広がりを見せる#4 "Where Dull Care is Forgotten"も引きつけられるし、#5 "Nonentities"のようなどっしりとした展開は単にポストバンク要素だけでは無い魅力も。ラストの#6 "Opiate Glow"はよりパンクな面が色濃く出ていてその突発的に荒ぶる中にも程よいひねり加減がユニーク。
聴いていると6曲があっという間に終わってしまうが、潔さみたいなスッキリとした印象を残す。結果的にシンプルに思えても各曲はどれもユニークで創意工夫が伝わってくる。
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Faux DiscxLP/Digital[released]March 10, 2014
 
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#2 "RNRFON"のビデオ

2014-03-23

Stevie Dinner - ~Mystery Flavor~

2013年に戻った話になるのですが、アトランタのStevie Dinner(境界線がやや曖昧だがTV Dinnerの別バンド)のアルバム「~Mystery Flavor~」
bandcampとフィジカルではMuckman RecordsからCDとカセットがリリースされていました。全体的にポップなのに聴いているうちにいつの間にかどんどん湾曲していくような雰囲気に飲み込まれます。#2 "Card Declined for Pizza & Wine"はアップテンポなメロディから序々に変化していき、フルートの音色もうすら不気味さを増長させていてなんともクセになる。 #3 "Stranger"はこもった中にゆらゆらとヴォーカル(これはどの曲でも当てはまるかも)が漂うひと際ムーディな曲。かと思えば突然思い出したように勢いを増してみたりするのでびっくりする。#6 "Black Cat"はシンプルながらもフックがあるし、曲によっては瑞々しいギターサウンドの間を時にスペーシーにうねるシンセが飛び交っているのが印象に強く残る。そんな目まぐるしさが素直に楽しい。しかしインストゥルメンタルの#13 "~Mystery Flavor~"はどこかモンドっぽくもありまた違った一面も。もやっと密室的で予測不能な展開が次々に起こる全16曲。奇抜な組み合わせをしれっとこなすセンスはなかなか。かなり面白いです。
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Muckman RecordsCD/Cassette/Digital[released]September 5, 2013
*bandcamp : Digital[released]September 10, 2013 

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2014-03-16

PyPy - Pagan Day

モントリオールから突如現れたPyPyのデビューアルバム「Pagan Day」リリースは今年の2月にSlovenly Recordingsから。
その正体はRed Mass、Duchess Says、CPC Gangbangsのメンバーからなるバンド。その組み合わせだけでも十分濃厚である事が想像出来ますが、サウンドの方もかなりエッジを効かせたパワフルかつサイケデリックなアルバム。
#1 "Pagan Day"からノイジーに攻めまくるパンクなサウンドに圧倒される。ゴリゴリと緩急を付けながら突き進む#2 "New York"も然り、紅一点のヴォーカルのエキセントリックな存在感はカリスマ的ですらあって察するにバンドの最も重要な部分なのだと思う。そしてそれを完全に網羅している他メンバーのタイトで絶対的な演奏力。どちらが欠けても成り立たない。ダイナミックなギターラインは時にメロデックに響き渡っていて表現の幅の広さが伺える。疾走感のあるパンクな曲も良いが# "Molly"では霧に包まれたような湿度の高いサウンドを展開している。#4 "Daffodils"はどこかミニマルさも感じられて彼らが勢いだけでなく混沌とした中にアートなニュアンスが意図的に散りばめられているように感じた。ラストの#7 "Ya Ya Ya / Psychedelic Overlords"も変化球。パンチが効いていて強い印象を残す。しかしサイケな雰囲気を醸し出しギリギリの危うさを抱えながら全力で駆け抜けるようなスリルは痛快。
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Slovenly RecordingsLP/CD/Digital[released]February 11, 2014

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彼らのリハーサルスペースでの#2 "New York"セッション映像。姐さんかぶってます
Entretien normal de musique ||| PyPy *NEW YORK from Entretien normal de musique on Vimeo.

2014-03-05

Each Other - Being Elastic

モントリオールを拠点に活動するトリオ、Each Other待望のデビューフルアルバム「Being Elastic」2011年からEPやシングルを出して来た彼ら。以前から独自のセンスと抜群のメロディが際立っていたがその積み重ねが開花したのだろうか、フルアルバムというこれまで以上のボリュームでも予想を見事にひっくり返してくれる自由度の高いユニークな内容となっている。
これほどに音のジャンルを断定しにくいのも珍しく(そんな事しなくても良いが)それは聴く側によって変わり偏見を持たせない。#1 "About the Crowd"のように人懐っこいポップさが常にあるのでシンプルに聴き手に響いてくる。それだけ吸収したものを自分のスタイルに落とし込む表現力に富んだバンドなのだと改めて感じる。もちろん、細かい部分でのこだわりも曲の随所にあるように思う。BradとMikeコンビの息の合ったヴォーカルのハーモニー、2本のギターの掛け合いでは(時にギターでベースラインも兼ねる)身軽でひねりの効いた柔軟なサウンドを展開させている。さらにサウンドをがっちり支えつつ、ユニークな彩りを添えているChristianの叩き出すドラムの躍動感はメロディに沿うようにフィットして明確。そして何より楽しさが伝わって来るのが良い。3人の絶妙な相互作用が最大の強みなのかもしれない。曲によって印象が大分違うがやりたい事を思う存分に詰め込んでいる充実感がある。#9 "Seeing Doubles, Dreaming Troubles"での唐突に吹っ切れて荒ぶるサウンドには潔さを感じるし、#11 "Swell Patterns"はハーモニーの盛り上がりはのびやかでエモーショナル。縦の触れ幅が大きくタイトル通りまさに屈託の無い、自在に弾むサウンド。
音以外で気になるのがアルバムアートワークや#8 "Your Ceiling Is My Floor"のビデオ。今までの小洒落た感じと異なり自らがフューチャーされている思い切ったもの。むしろこっちが自然体というか素なのかもしれないが、ちょっとだけ風変わりな人間味溢れる部分も魅力なのだろう。
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Lefse Records : CD/LP/Digital [released]March 4, 2014
(*Fat Possum Records)

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2014-02-23

Fountain - s/t

カナダはビクトリアから現れた若手バンドFountain。今年2月にリリースされたセルフタイトルのアルバム。ビクトリアと言えば気骨溢れる演奏力にほのかに漂うスマートさが魅力のバンドが多いイメージがあるが、彼らもまたもれなく該当するようだ。それはやっぱり土地柄的な影響も関係してるんだろうかと思ってしまうがあくまでエッセンス的な物だろうし、当然それだけでは無いだろう。
#1 "Graham Street Landmark"からざくざくとダイナミックに突き進むギターサウンドには若いバンドらしい衝動的な勢いをを見せているが、それに添うように繰り出される知的で安定しているリズムが高まる熱を上手く分散、調和させている印象だ。#3 "Jesus '99"などではその境界線が見事に合わさる瞬間があり、かなりの爽快感がある。最後まで程よい緊張感を保ったまま緩急やひねりを使いこなすポストパンク的な音作りにはこなれてる感があってそれぞれ違った側面を見せてくれるので決して飽きさせない。ひりひりとした熱を放つ#5 "Ladybug Mating Ritual"やどっしりとしたサウンドにうねるメロディが冴える後半#8 "New Age Prices"なども然り、聴いていて思わずハッとするような発見に溢れたアルバム。
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bandcamp[released]January 10, 2014

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#3 "Jesus '99"のビデオ
Fountain - Jesus '99 from Dr. DiNinno Productions on Vimeo.

2014-02-17

Alden Penner - Exegesis

元The Unicornsメンバー、Alden Pennerのソロ作「Exegesis」ソロでは2011年にも出しており、今年に入ってからはEP「Precession」も発表。このアルバムにはこのEPからの4曲を含む全11曲。今まで何かしらの活動での作品を聴く事が出来ており、The Unicorns後に組んで活動していたCluesThe Hidden Wordsはやはり他のメンバーの影響や色が濃く出ている印象でそれも非常に興味深かったのだが、ソロ作は自身の内面にが反映されたような深みがある。
しかし完全に別物と分けてしまっている訳では無さそうだ。例えばひと際にぎやかな高まりを見せる#2 "Louis XIV"や#4 "Lovely Legs"はClues時代に演奏していた曲が元となっているようで、(おそらくライブで演奏していたのでは)それはもう一つのThe Hidden Wordsでの活動も然り。あくまで過去の活動あってこそのなのだろう。#3 "A Beautiful Dream"の開けた高揚感にも耳を奪われる。そういった意味では今までのキャリアを存分に落とし込んだ作品かもしれない。それぞれの曲によってアプローチや表現の仕方が異なれど、圧倒的な存在感を放っているヴォーカルは全てを統括するようで思わず聴き入ってしまう。それはソロになってからさらに奥行きが出ているようにも思う。哀愁を漂わせながら移ろう美しいメロディも相まって時に独特な浮遊感をもって、またある時はじっくり音に溶け込むように芯から響いてくる。
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もう一つ驚きだったのが先日のThe Unicorns再結成のニュース。まだ詳細は決まっていないのでファンとしては両手を挙げて喜べないが、オリジナルメンバーの3人でライブを行う計画などがあるそう。本国Exclaim!のこの記事から感じるのは今まで実は地道に計画が練られていたようにも見えるし、一方でただ単に話の段階とも取れる。もし実現すれば今年で解散10年後というのは偶然か必然か、続報が気になる。
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bandcamp[released]February 4, 2014

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2014-02-15

Red Sea - Yardsticks for Human Intelligence

アトランタで活動するアートロックもしくはノイズポップバンドRed Sea。今月に突然このタイミングでbandcampにリリースされた4曲「Yardsticks for Human Intelligence」
レコーディング自体は2012年だそうで、#1 "Tandem Stye"は以前から公開のみされていました。1曲の中で曲調がごく自然な流れで変化していくランダムな驚き。過去にはメンバーの他バンドでの活動もあったりと、もしかするとバンドで活動するのはそこまで頻繁では無かったかもしれないが、当然それはネットで見える範囲での話。数は少なくても曲の持つ奥深い煌めきは抜群。変幻自在でありながら決して難解では無く、むしろ聴く側にすっと入って来るような伸びのあるハーモニーに全体が覆われているのも持ち味。
#2 "Grape"後半の美メロからのまろやかながらどこか不穏で機械的なノイズとのギャップが面白い。#3 "Down With The Crown"ではずっしりとしたリズムにふわっと余韻を残していくギターサウンドも軽やかに映える。 #4 "Vacant Ring"もざらついた音を編み込みながら展開されていく豊かなヴォーカルの広がり。でも一貫して印象に残るのは時々浮き出て来るメロディの鮮やかさなのかとも思う。
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bandcamp : Digital[released]February 12, 2014

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昨年の映像のようですが "Vacant Ring"を演奏しています。

2014-02-10

【feature】Chad VanGaalen

photo via : Sub Pop

2000年初頭から現在に至るまで活動し続けるカルガリーのChad VanGaalenの通算5枚目となるニューアルバム「Shrink Dust」が4/29にリリース。アルバムが待ち遠しいのはひとまず置いといて、今回はSSW、アニメーター/イラストレーター、はてまたプロデューサーとマルチな彼の活動(主に音楽の方)を振り返ってみたいと思います。ライブはバンド編成が多いですが基本的に全部自分でこなしているからこそ生み出されるのではと思うほど、独創的な世界観は作品を出すごとに濃厚かつ広くなっていきます。思わずぎょっとするようなインパクト、恐ろしいんだけどついつい見てしまう。アルバムジャケットとビデオに関しては必ず自作を貫いているのも凄い所。プライベートでは二児の父親でもあります。

Infiniheart - 2004
ベッドルームのスタジオで録音されたというデビューアルバム。2004年、初めはカナダのレーベルFlemish Eyeからリリースされ、一年後にSub Popからのリリースとなった作品。まだ今と比べるとシンプルながらも有機的な音の表現の細かさや多彩性は当時からしてもずば抜けていたのでは。一方で自由でのびのびとした空気が流れているのも魅力。リリース自体は2004年ですが音楽活動は90年代からしているようなので、それまでの集大成的な意味もありそうだ。



Skelliconnection - 2006
前作の延長でほっこりハーモニカの音色が沁みるような曲もあれば、鋭角な攻撃性も垣間見えるようになった2作目。ヴォーカルもより鮮明になった印象だ。突然どたばたする実験的な展開にもっていかれるので油断できません。特筆すべきはなんと言っても2007年の Polaris Music Prize(カナダの音楽賞)にノミネートされたという事。ちなみにこのアルバムと次のアルバムはその年の10枚を選んだショートリストに入っています。



Soft Airplane - 2008
本国カナダはもちろん、特に国外の様々な所からの注目度がぐっと上がったのは3作目とも取れる。そんな事を知ってか知らずかますます混沌とした音世界が広がり、ひっそりとしかし確実にインパクトを残す哀愁感、どこかもの悲しげな歌声が印象的でこの作品で特に色濃く出ている。夜中に聴き始めるとするりと心の隙に入り込んでくるような中毒性もあり。アルバムに収録されている"Rabid Bits Of Time"という曲は映画「Norman」に使われました。



Diaper Island - 2011
4枚目となったアルバムは彼の自宅の新しいスタジオ、その名もYoko Eno(名前がとにかく気になります)で収録されたもの。突飛さがかなり薄れ、一貫としてどっしりと輪をかけ広がるように繰り広げられるサイケデリックな雰囲気に飲まれる。ある種の統一感が他のアルバムからすると珍しいのでは。キャリア的にもかなりの経験を積んでいるからこそ出せる円熟したサウンドが光る。メロディの美しさにも改めて注目したい。




Shrink Dust - 2014 (4/29)
そして約3年ぶりとなる5枚目。先行して新曲"Where Are You?"が公開されています。


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【他リリース作品】
その他過去に出したEPは全部で4枚ですが、その中でも2011年の「Your Tan Looks Supernatural」は収入のすべてが赤十字に寄付され日本の震災へ支援に使われるといったもの。すぐに支援を行動にしてくれたのも印象深かった。

一体未発表な曲はどのくらいあるんだろうか。過去5年分貯めた音源をカセットで一気にどーんとリリース、全8本。Chad VanGaalen: Cassette Tape Series 

時期的に大きくアナウンスされなかったような気もする2012年にリリースされたXiu Xiuとのスプリット12"、「Chad VanGaalen / Xiu Xiu - The Green Corridor #02」も聞き逃せない。


【別プロジェクト】
忘れてはいけないのがBlack Mold。2011年に唯一アルバム「Snow Blindness is Crystal Antz」を出しており、全編インストでよりエクスペリメンタルなサウンドが炸裂してます。本家で表現しきれない事をこっちにシフトして思う存分制作したような感じ。


【他バンドへのプロデュース】
もはやその界隈では親父/兄貴的な存在なのであろう彼がプロデュースしたバンドで一番知られているのは同郷のWomenだろう。2枚のアルバムのプロデュースはもちろん、解散後メンバーをライブのサポートに迎えたり、故Chris Reimerの後に出されたソロ作その名も「The Chad Tape」にも関わっている。ちなみにChrisのトリビュートアニメ制作にも参加。またCindy Leeのアルバムをプロデュースしたりと縁が深い。
 2011年は同じくカルガリーのExtra Happy Ghost!!!のアルバム「Modern Horses」もプロデュース。お互いファンだったそうですが、確かに共通する空気感を持っている感じだ。レコーディングされたのもChadのスタジオYoko Eno。さり気なく1曲だけ"Feeds Wolves Luck"でコーラスで参加しています。(控えめ過ぎて言われないと気付きません)

そして2014年にリリースされる作品ではトロントのAlvvaysのデビューアルバムをプロデュースしています。(リリースはおそらく上半期)→追記:7月末だそうです。 久々のプロデュース業なのだろうか。

【他バンドへのアニメーション制作】
確認できるのはこの4本、まだあるかも。音楽が違うとまた印象も変わります。
Love as Laughter - Dirty Lives (2006)
J Mascis - Not Enough (2011)
Mother Mother - The Sticks (2012)
METZ - Get Off (2013)

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といった感じにざっくりまとめてしまいましたが、これはあくまで音楽だけの話。最後にライブ映像を挙げて締めたいと思います。こつこつと繰り広げられる不思議なチャドさんワールドに今後も目が離せません。



2014-01-26

Scrapings (compilation)

ニューヨーク、ブッシュウィックのカセットテープレーベルPrison Artのコンピレーション「Scrapings」総勢18組のアーティストからなるこのテープはCarpi Recordsとのコラボレーション作になっている模様。
2レーベルでそれぞれにリリースした事のあるThe MiamiPlumsShopping SpreeBrandon Hurtadoの曲が収録されていてどのバンドもひとひねり効かせていてユニーク。 中盤に収録されているSswampzzの"Serenity Now"もパンチの効いたノイズパンクで目が覚めるよう。やはりニューヨークのバンドが多いようですが、同じくPrison Artから以前EPをリリースしたカナダはモントリオールのEach Otherのメロウな雰囲気漂う"Certain Happenings"(公開はされていながらどの作品にも入っていなかった)が収録されているのにも注目。その縁なのか彼らが以前組んでいたバンドLong Long Long、さらにさかのぼりYork Redoubt時代から一緒だったメンバー、Caleb LangilleのプロジェクトMean Windの曲"Down for the Count"もさり気なく入っているのも聴きどころ。タイプも様々ですがレーベルの統一感みたいな物がしっかりあるように思えて、エクスペリメンタルながらもポップな人懐っこさが魅力的。コンピレーションである事がさらにその自由な空気感を増幅させているのだろう。—————————————————————————————————————————

Prison Art : Cassette/Digital[released]January 23, 2014

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